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構造的停滞の正体

管理職の時間が組織で詰まっている理由

管理職向けの研修を増やした。1on1を導入した。人的資本投資も拡大した。それなのに、現場の管理職は「以前より楽になった」と言わない。むしろ、新任管理職になりたがらない若手が増え、休職寸前まで追い詰められる管理職も出てくる。施策は打っているのに、なぜ効果が見えないのか。50名の管理職インタビューから浮かび上がってきたのは、組織の労働時間が構造的に詰まっている、という現実だった。



研修も施策も「効かない」と感じる理由


人的資本経営という言葉が浸透し、各社で管理職育成・1on1・キャリア支援・働き方改革が進められてきた。これらの施策は、それぞれ正しい。


しかし、現場の管理職は「楽になった」とは言わない。研修で学んだことを職場で実践しようとしても、降ってくる業務が止まらない。1on1を導入しても、部下の話を聞く時間そのものが捻出できない。キャリア支援を受けても、目の前の業務に追われて自分のキャリアを考える余裕がない。


施策と現場のあいだに、何かが詰まっている。



50名の管理職インタビューから見えてきたこと


プロスタンダードは2015年以来、管理職への支援を続けてきた。研修・コンサルティングを通じて延べ15,000名以上の管理職に向き合うなかで、ひとつの違和感が積み上がっていた。研修で熱心に学んだ方が、半年後の職場でほとんど変わっていない、という現象が繰り返し起きていたのだ。


その理由を多面的に把握するため、2022年から2023年にかけて、50名の管理職に1人1時間ずつのインタビューを行った。そこから見えてきたのが、組織の労働時間が構造として詰まっている、という事実である。



構造的停滞の定義


このインタビューで見えてきた詰まりに、私たちは「構造的停滞」という診断名を与えた。

構造的停滞:組織のなかで、管理職の労働時間が「準稼働」(必要だが付加価値を生まない業務)に詰まり、戦略目標と未来業務の両方に時間が回らなくなった状態。プロスタンダードが50名の管理職インタビューから定義した、組織レベルの時間配分の詰まりを指す独自概念。


「個人の能力不足」「時間管理の問題」と片付けられがちな現象を、組織構造の問題として捉え直したものである。



構造的停滞があると何が起きるのか


構造的停滞が組織に詰まっていると、管理職の時間は静かに、しかし確実に溶けていく。


朝出社して、メールと社内チャットを片付けているうちに午前が終わる。午後は会議が連続し、合間に資料レビューと部下からの相談対応。夕方になって、ようやく自分の本業務に取りかかるが、すでに集中力は残っていない。残業しても消化しきれないため、翌日に持ち越す。同じパターンが、毎日のように繰り返される。


50名のインタビューでは、この状態が長く続くと、本人のパフォーマンスが低下するだけでなく、メンタルがかなり落ち込んでいたケースが複数確認された。なかには休職寸前、あるいは実際に休職に至った方もいた。チーム全体のパフォーマンスも、管理職の時間が詰まるほど低下することが、リクルートワークス研究所「マネジメント行動に関する調査 2019」でも示されている。


これは個人の弱さの問題ではない。組織の労働時間の構造が、こうした結果を作り出している。



構造的停滞は3つの主症状として現れる


50名のインタビューから、構造的停滞は3つの主症状として表面化することが確認された。


第一に、目の前の業務が積み上がり続け、消しても消しても降ってくる症状。第二に、部下育成と自分のプレイング業務がすべて「重要」に見えて、力点が定まらない症状。第三に、時間の使い方そのものは悪くないのに、業務の標準化やナレッジ化が後回しになり、若手や後から入ったメンバーがキャッチアップに苦しむ症状。


それぞれの症状の詳細、該当割合、抜け出すまでにかかる年数については、別途、CHRO・人事責任者向けの解説レクチャーで詳しくお伝えしている。



なぜ「個人の問題」として片付くと解決しないのか


構造的停滞の難しさは、現場の管理職に「業務改善」「時間管理」「優先順位づけ」のスキル研修を提供しても解消しないことにある。これらの研修はすべて、個人スキルを高める前提に立っている。


ところが、構造的停滞は組織の労働時間配分そのものに詰まりがあるため、個人がいくらスキルを磨いても、業務は降ってきて、会議は減らず、抱え込みも止まらない。コヴィー博士が『7つの習慣』が説いた「ビッグロックを先に置く」という発想も、置く時間そのものが組織に存在しない以上、個人の意思では実装できない。


構造的停滞は、個人ではなく組織の問題として扱われるべきものである。



構造的停滞を可視化する入口


構造的停滞は、抽象的な概念ではない。組織の労働時間を「稼働/準稼働/非稼働/未来業務」の4区分で構造化すれば、どの部分に詰まりが生じているかを可視化できる。


この4区分による可視化フレームを、プロスタンダードは時間資本マトリクスとして提供している。構造的停滞という現象に名前を与え、症状を整理し、組織レベルでの解消に踏み込むための入口がこのフレームである。



構造的停滞は解消できるのか


構造的停滞を放置すれば、管理職の罰ゲーム化は深刻化していく。一方で、50名のインタビューには、管理職になってすぐに習熟し、ほとんど困らなかった少数派も含まれていた。その方々が実際に取っていた行動には、構造的停滞のなかで「すぐにできる工夫」のヒントが含まれている。

組織の構造そのものを変えるには、経営層と人事の本気の踏み込みが必要になる。だからといって構造改革を待つ必要はなく、現場の管理職側でできる打ち手も並行して整理できる。両輪を回していくことが、構造的停滞からの脱出経路となる。


このフレームと脱出経路は、14年・100社・延べ15,000名の管理職・現場社員に向き合うなかで構造化・体系化してきた。


 構造的停滞の前提となる「時間資本マトリクス」については、別記事「時間資本マトリクスとは何か」で詳しく扱う。

 上位概念である「時間資本経営」については、別記事「時間資本経営とは何か」で詳しく扱う。


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