時間資本マトリクスとは何か
組織の業務時間を可視化する3+1のフレーム
人的資本経営という言葉は、ここ数年で急速に浸透した。誰に投資し、どう育てるか、という議論は活発である。しかし、その投資を受けた管理職・現場社員の「時間」が、組織のどこに使われ、消えていくかを構造化して可視化する枠組みは、ほとんど存在してこなかった。
時間資本マトリクスは、組織で働く管理職・個人の労働時間を「稼働/準稼働/非稼働/未来業務」の4区分で構造化し、戦略目標とビジョンの両方に時間を循環させるための、プロスタンダード独自のフレームである。
※稼働とは「付加価値を生む業務」、準稼働とは「稼働を補助し、付加価値を生んでいないが現状のシステムでは必要な業務」、非稼働とは「付加価値を生まない業務」(出典:JIS Z 8141「生産管理用語」、日本IE協会「稼働分析」)
なぜ「時間資本」という見方が必要なのか
「時間資本」という言葉は、最近になって複数の論者が語り始めた概念である。経営思想の文脈ではKPMGが「Temporal Capital」として個人と社会の時間価値を論じ、個人のキャリア戦略の文脈では山口周氏が4つの資本(時間/人的/社会/金融)の起点として位置づけている。
プロスタンダードとしても、「時間資本」という概念が社会で立ち上がっていくこと自体を歓迎している。一方で、これらの議論はいずれも個人または社会レベルが中心であり、組織内、特に管理職の業務時間配分という結節点にまでは踏み込んでいない。弊社が14年の現場実装を通じて取り組んできたのは、まさにこの組織レベル、とりわけ管理職を中心とした、時間資本の構造化と循環である。そして、このBANIの時代、必ず「時間軸」が必要になると考えている。
時間資本(組織版)の定義
時間資本(組織版)を、私たちは以下のように定義している。
組織が戦略目標・ビジョン達成のために配分すべき労働時間の総体。
稼働/準稼働/非稼働/未来業務の4区分で構造化される。
戦略目標は稼働・準稼働の時間に紐づき、ビジョンは未来業務に紐づく。戦略目標とビジョンが両輪として存在することで、4つの区分すべてに意味が与えられる構造になっている。
時間資本マトリクスの構造
[ ここにビジュアル:パターン1 半円矢印版 ]
時間資本マトリクスは、左の3枠(稼働/準稼働/非稼働 × 目の前の業務)と、右の1枠(未来業務)からなる「3+1構造」をとる。未来業務に投じた時間は、結果として稼働・準稼働・非稼働に事後分類される性質を持つ。そのため、6マスではなく、未来業務をひとまず1枠として外に置く設計にしている。時間は配分しただけでは決まらない、という前提が反映されている。事後に振り返ることで、時間資本をより本質に向けて循環させることが可能になる。
4区分の中身
稼働時間
戦略目標や成果に直結している業務時間。顧客への価値提供、意思決定、収益に直接結びつく活動など、組織のアウトプットを生み出している時間がここに入る。
準稼働時間
必要な業務ではあるが、構造 的に膨張しやすい性質を持つ業務時間。会議(主に情報共有や進捗確認など)、社内調整、レビュー、報告資料作成などがこれにあたる。重要なのは、準稼働は「悪い時間」でも「個人がサボっている時間」でもないということ。
これは個人や管理職の責任ではなく、組織構造の問題として扱うべきものである。多くの組織で、管理職の時間がこの準稼働に溶けている。
非稼働時間
付加価値を生んでいない業務時間。手戻り、形骸化した業務や会議、誰のためでもない作業など、削減・撤廃の対象となる時間。
未来業務
新しい飯のタネを生む活動、組織のありたい姿に近づくための活動。ビジョン側の時間。今期の戦略目標の先にある構想に時間を投じる行為である。
なぜ「マトリクス」なのか
ビジュアルの中心に描かれた半円矢印①②③が示しているのは、4区分が循環する構造であるという思想である。
未来業務に投じられた時間が後々成果を生み、稼働の質を上げ、それが組織能力として蓄積されることで、同じ時間からより多くの成果が生まれるようになる。時間の「量」が、時間の「質」へと転化していく。この量質転化の循環を内在的に組み込んでいることが、時間資本マトリクスを「マトリクス」たらしめている。
逆に、この循環が止まり、時間が準稼働で詰まり、未来業務や稼働業務に回らなくなった状態が、構造的停滞である。
なお、この循環がどの程度機能しているかは、時間資本マトリクスの3つの測定軸で定量的に把握できる(詳細は別記事で扱う)。
既存のタイムマネジメント論との違い
時間の使い方をめぐる議論は、これまで圧 倒的に個人レベルで行われてきた。重要なことを先に置く、緊急ではないが重要なことに時間を割く、優先順位をつける。いずれも個人がやれることの話である。
しかし、現場の管理職は、いくら個人で優先順位をつけようとしても、組織の構造的停滞があれば、ビッグロックを置くことすらできない。降りてくる業務、抱え込まされる業務、終わらない会議。これらは個人の意思では消えない。
時間資本マトリクスの主語は組織である。個人のスキル論の前に、組織が時間をどう構造化しているかを可視化する。これは『7つの習慣』の手前にある前提層である。
人的資本経営との関係
人的資本経営は、「誰に・どう投資するか」を扱う枠組みである。これに異論はない。
しかし、投資された人材の時間が、現場で準稼働に溶け、未来業務・稼働業務に回らないままなら、投資は成果に結びつかない。人的資本経営の効果が出るためには、その人の時間が組織のなかで循環している必要がある。
時間資本マトリクスは、人的資本経営を機能させる次の一手となる。投資の後に、循環の構造を整える。これが、プロスタンダードが提示するロジックである。
時間資本マトリクスをどう使うか
時間資本マトリクスは、3つのサービスを通じて組織に実装される。
・時間資本マトリクス・コンサルティング:構造改革への伴走
・時間資本マトリクス・プログラム:管理職・現場への実装研修
・時間資本マトリクス・セミナー:経営層〜現場への考え方のインストール
このフレームは、14年・100社・延べ15,000名の管理職・現場社員に価値提供するなかで構造化・体系化してきた。
時間資本マトリクスとは何か
組織の業務時間を可視化する3+1のフレーム